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あの暑い日々、太陽に向かって頭を上げていたその大輪の花は、
いまはその身が支えきれず、重苦しく首をたれている
元就はその首をそっと両手で持ち上げ、小さなため息をついた
「萎れちまったな」
庭に佇んだその薄い肩に、後ろから両腕を回しながら元親が言った
「・・・あぁ、そうだな」
盛りの頃には鮮やかな黄色をしていた花びらも、今はくすみ、
元就が指先で撫でるだけでプツリプツリと千切れてしまう
今年の春の頃に、元親が贈った種だった
遠い国で、太陽に向かい、太陽に様に咲く花だと
元就の庭に植えられた種は彼の手で大事に育てられ、見事な輝きを咲かした
「嗚呼、真に日輪のようだ」と、咲き誇る花を嬉しげに眺めていた横顔を、元親は覚えている
季節は巡る
巡り巡って、美しい花は枯れ、その姿を微塵も残すことなく消えていく
それは全ての理、逃れえぬ必然
「元就」
元親は元就の手に中にある花の首をそっと持ち上げる
「?」
「手はそのまま」
節のある大きな手は、似合わぬ繊細さで花の中央を撫でる
すると、器の形をした元就の手の中に、パラパラと乾いたものが零れ落ちた
「これは・・・」
手の中のモノを眺め、元就は小さく息を詰める
それは、春にも見た、この花の種子
「元就
お前はいつも、先を思いすぎてる
そして、思う先に、悲しみを見すぎている
全てには終わりがある
花は必ず枯れる、人は必ず絶える
だけど、その過程で、必ずこうして、何かが残る」
元就の手と共に、小さな種子を手のひらで包み込む
「来年はもっと、多くの花を咲かせよう」
真横で微笑む元親に、元就はまだぎこちない笑みを返すと、彼の腕からするりと抜け出す
「なにか、袋を持ってくる」
手の中の種子をきゅっと握り、元就は小走りで館へ向かう
嗚呼、種を入れるための袋かと、気づいて、元親はその背を見送る
ふと、今しがた彼が駆けた足元を見た
そこには、気の早い曼珠沙華が赤い花弁を空へ伸ばしていた
--*--*--*--*--*--*--
ヲトメムードでチカナリ
もうわかりきっているかと思いますが、桐生は花ネタが好きです
いまはその身が支えきれず、重苦しく首をたれている
元就はその首をそっと両手で持ち上げ、小さなため息をついた
「萎れちまったな」
庭に佇んだその薄い肩に、後ろから両腕を回しながら元親が言った
「・・・あぁ、そうだな」
盛りの頃には鮮やかな黄色をしていた花びらも、今はくすみ、
元就が指先で撫でるだけでプツリプツリと千切れてしまう
今年の春の頃に、元親が贈った種だった
遠い国で、太陽に向かい、太陽に様に咲く花だと
元就の庭に植えられた種は彼の手で大事に育てられ、見事な輝きを咲かした
「嗚呼、真に日輪のようだ」と、咲き誇る花を嬉しげに眺めていた横顔を、元親は覚えている
季節は巡る
巡り巡って、美しい花は枯れ、その姿を微塵も残すことなく消えていく
それは全ての理、逃れえぬ必然
「元就」
元親は元就の手に中にある花の首をそっと持ち上げる
「?」
「手はそのまま」
節のある大きな手は、似合わぬ繊細さで花の中央を撫でる
すると、器の形をした元就の手の中に、パラパラと乾いたものが零れ落ちた
「これは・・・」
手の中のモノを眺め、元就は小さく息を詰める
それは、春にも見た、この花の種子
「元就
お前はいつも、先を思いすぎてる
そして、思う先に、悲しみを見すぎている
全てには終わりがある
花は必ず枯れる、人は必ず絶える
だけど、その過程で、必ずこうして、何かが残る」
元就の手と共に、小さな種子を手のひらで包み込む
「来年はもっと、多くの花を咲かせよう」
真横で微笑む元親に、元就はまだぎこちない笑みを返すと、彼の腕からするりと抜け出す
「なにか、袋を持ってくる」
手の中の種子をきゅっと握り、元就は小走りで館へ向かう
嗚呼、種を入れるための袋かと、気づいて、元親はその背を見送る
ふと、今しがた彼が駆けた足元を見た
そこには、気の早い曼珠沙華が赤い花弁を空へ伸ばしていた
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ヲトメムードでチカナリ
もうわかりきっているかと思いますが、桐生は花ネタが好きです
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※事前シチュエーション説明※
元就は、山崎で光秀の狂気に飲まれて、自壊済み
己の手で毛利軍を全滅させ、自身も死んだことにして、光秀の元に下る
光秀が信長を殺したいのと同じに、元親を殺すためだけに生きてる
そんなドコにも光の当たらない話
地味グロ系です(ナニソレ?)
よろしければ・・・
元就は、山崎で光秀の狂気に飲まれて、自壊済み
己の手で毛利軍を全滅させ、自身も死んだことにして、光秀の元に下る
光秀が信長を殺したいのと同じに、元親を殺すためだけに生きてる
そんなドコにも光の当たらない話
地味グロ系です(ナニソレ?)
よろしければ・・・
寄り添うことが幸せだった
ただ二人、共に在ることだけで良かったのだ
(そんなものは幻想だと気づいていたのに)
繋ぐ手はどうして離れるのか
思う気持ちは何処で途切れたのか
温もりを忘れたのはいつの日か
(そして僕らは、その根本的な存在を疑った
其れは本当にあったのか?
其れは最初から無かったのではないか?)
そうだ、お前の首筋に刃を向けた時
嫌だと叫び、お前の手を取り逃げるべきだった
嫌だ、嫌だ、嫌だと、泣き叫び、お前と共に逃げればよかった
(一体何処へ?)
せめてこの世でなければ、お前と共に生きる道が在ったのだろうか
(其れを求めなかったのは他でもなく、自分なのだけれど)
--*--*--*--*--*--*--*--
BASARAのライバルキャラCPイメージ
・・・殺すなっつーに・・・凹
ただ二人、共に在ることだけで良かったのだ
(そんなものは幻想だと気づいていたのに)
繋ぐ手はどうして離れるのか
思う気持ちは何処で途切れたのか
温もりを忘れたのはいつの日か
(そして僕らは、その根本的な存在を疑った
其れは本当にあったのか?
其れは最初から無かったのではないか?)
そうだ、お前の首筋に刃を向けた時
嫌だと叫び、お前の手を取り逃げるべきだった
嫌だ、嫌だ、嫌だと、泣き叫び、お前と共に逃げればよかった
(一体何処へ?)
せめてこの世でなければ、お前と共に生きる道が在ったのだろうか
(其れを求めなかったのは他でもなく、自分なのだけれど)
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BASARAのライバルキャラCPイメージ
・・・殺すなっつーに・・・凹
不意に、時折現れる、彼の特異な癖に気づいた
物を取るとき、わざわざ左手で取った後に、右手に渡すのだ
「・・・お前、もしかして元々は左利きなのか?」
書き物をしていた元就に、何気なく問いかければ、彼は眼を丸くして振り返った
「・・・誰かから聞いたのか?」
癖というのはやはり、自分では気づかないのか、元就は心底不思議そうに尋ね返す
「いや、なんとなく。 お前見てたら、そう思っただけなんだけど・・・」
「・・・他人より指摘されたの初めてだ」
元就は右手に持った筆を、何気なく左に持ち替え、数行文字をつづる
「矯正したのか?」
「あぁ、武家ならば当然であろう」
一時の気まぐれに飽いたように、元就は左手の筆を硯へ傾ける
「不便じゃないか?」
「もう慣れたものだ。 不便とは感じぬ」
知らぬものが見ればそうとは気づかないほどなのだから、確かにそうなのかもしれない
不意に、元親は元就の背後より身を乗り出し、彼が書いていた書面を見る
「あぁ、でも」
元親の指が、ツィと数行の文字列を巡る
それは、先ほど元就が、本来の手で書いた文字
「こっちのほうが、お前らしいよ」
己の真横で笑う彼に、短く「そうか」と答えると、
元就は、左手で、その顔に触れた
--*--*--*--*--*--
元就が左利きだったら楽しいのに、とかそんな妄想
でも、日本刀の刃向きの関係で、武士は大抵、矯正しますよね
左利きの武士なんて、斉藤一とBASARA小十郎くらいじゃない?
地味に、自作お題に返答・・・みたいな
早く、元就組合に2verの質問とお題を上げたい・・・!!
物を取るとき、わざわざ左手で取った後に、右手に渡すのだ
「・・・お前、もしかして元々は左利きなのか?」
書き物をしていた元就に、何気なく問いかければ、彼は眼を丸くして振り返った
「・・・誰かから聞いたのか?」
癖というのはやはり、自分では気づかないのか、元就は心底不思議そうに尋ね返す
「いや、なんとなく。 お前見てたら、そう思っただけなんだけど・・・」
「・・・他人より指摘されたの初めてだ」
元就は右手に持った筆を、何気なく左に持ち替え、数行文字をつづる
「矯正したのか?」
「あぁ、武家ならば当然であろう」
一時の気まぐれに飽いたように、元就は左手の筆を硯へ傾ける
「不便じゃないか?」
「もう慣れたものだ。 不便とは感じぬ」
知らぬものが見ればそうとは気づかないほどなのだから、確かにそうなのかもしれない
不意に、元親は元就の背後より身を乗り出し、彼が書いていた書面を見る
「あぁ、でも」
元親の指が、ツィと数行の文字列を巡る
それは、先ほど元就が、本来の手で書いた文字
「こっちのほうが、お前らしいよ」
己の真横で笑う彼に、短く「そうか」と答えると、
元就は、左手で、その顔に触れた
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元就が左利きだったら楽しいのに、とかそんな妄想
でも、日本刀の刃向きの関係で、武士は大抵、矯正しますよね
左利きの武士なんて、斉藤一とBASARA小十郎くらいじゃない?
地味に、自作お題に返答・・・みたいな
早く、元就組合に2verの質問とお題を上げたい・・・!!
「夢を見ないのだ」
元就の不意の一言に、元親は首をかしげた
「眠っても、夢を見ない」
「見たい夢なのか?」
問いかけられ、元親の顔を見る
彼は笑っている
「・・・いや・・・見たい、わけではない・・・」
「じゃあ、イイじゃねぇか」
「・・・・・・そう・・・そうだな・・・」
「筆を知らぬか?」
「筆?」
「あぁ、私がいつも使っている筆だ
机から動かすはずもないのに、見当たらぬ・・・」
「今すぐ必要なのか?」
彼は笑っている
「・・・・・・いや、ただ、見当たらぬと気が落ち着かぬ・・・」
「少しくらい仕事を忘れてもバチはあたらねぇよ
なぁ、外に行かないか、今日は天気がいい」
「・・・・・・・」
「な?」
「・・・あ、あぁ・・・そう、しようか・・・」
「どうしたんだ? 外ばかり眺めて」
「・・・今、季節はいつであったか・・・?」
「今は夏だぜ、ほら、朝顔が咲き始めてる」
「・・・今年は、ずいぶんと過ごしやすいな・・・」
「そうだな。 お前は暑さに弱いから、ちょうどいいくらいだろ?」
彼は笑っている
「・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・その通りだ」
「よっし、風通しよくして昼寝でもするか」
「・・・・・・たまには、それも良いな・・・」
夢を失った眠り
筆のない机
穏やかな日々
そして、傍らで笑う、彼
「元親」
「ん?」
彼は笑う
甘く優しく、束縛するように
「季節はいつだ?」
「夏だ」
彼は笑う
「筆が一向に見つからない」
「必要ないだろう?」
彼が笑う
「夢を見ない」
「それは、」
「それは、今こそが夢だから」
彼は笑う
「そう、夢だ。 全部、お前の夢だ」
「・・・私の夢」
「お前の望み、お前の幸せ、その欠片、その類」
「筆のない部屋、穏やかな日々、そして・・・」
--傍らに、彼の笑みがあること
--彼と、二人きりの世界
元就はゆっくりと目をつぶる
「目覚めるのか?」
「・・・あぁ」
「現実なんて辛いことばっかりだ」
「・・・あぁ」
「ここに居ろよ、なぁ、元就」
「・・・それは、出来ない」
「どうしてだ?
お前は、
苦しんでばっかりだ、背負ってばっかりだ、傷ついてばっかりだ
欠片も愛していない現実なんてどうでもイイじゃねぇか」
「・・・・・・・元親」
「ここで、二人きりでいようぜ
ここなら、俺はずっと傍に居られる」
「・・・それは、幸せな夢だな・・・」
「だろう?」
「けれど、それは気が狂う、愛しさがわからなくなる
二人だけの世界なぞいらぬ
私は、無数の人が居る中で、そなたと出会い・・・
・・・そして、ほかのだれれも無く、そなたの傍に居ることを願った
私はそれを、誇らしく思っている」
「・・・・・・・・・元就」
「目覚めよう、私もそなたも
夢は甘いが、漬かり過ぎては身を溶かす
ようやっと覚えたこの・・・愛しさを、溶かして失いたくは無いのだ・・・」
「・・・そっか」
彼は笑う
少し寂しげに
けれど、嬉しそうに
「目覚めたら、抱きしめさせてくれ」
「--なりさ---、元就様」
「どうした」
浮き上がるように、意識が繋がる
呼ばれいることにすぐさま気づき、反射的に返事を返しながら、周囲を見渡す
見慣れた執務室
目の前には書きかけの書面と、使い慣れた筆
・・・どうやら、書き物をしている間に、眠りに落ち、そのまま文机に突っ伏して眠ってしまったようだ
夏の暑さの所為か、首周りが不快に汗ばんでいる
「あの・・・お客人が来ているのですが・・・」
締め切られた障子の先で、惑うように小姓は話す
「・・・客?」
「それが---」
その声をさえぎるように、荒々しい足音が廊下に響いた
「困りますっ、主はただ今、仕事中でっ!!」
「今も何も、年がら年中仕事じゃねぇかよ」
締め切られた部屋にも響き通る、快活な声
「---------」
元就は迷い無く立ち上がり、障子を開ける
「もとな、」
「通してよい、下がれ」
「か、かしこまりました!」
小姓は素早く一礼すると、口論になりかけている客人の元へ駆けた
「元就!」
小姓がたどり着くよりも早く、部屋から出た姿を見とめた彼が大きく手を振り、笑みを向けた
そして、制止していた家臣の横をすり抜け、元就の元へ駆け寄ると、
一にも二にもなく、彼の痩身を抱き寄せた
「夢を見た」
幼子がこらえきれず、今日の出来事を嬉々として話すように、元就を腕に抱いて、話し始める
「俺とお前しか居ない世界の夢だ
戦も執務もなくて、傍らにいつもお前が居て、
お前は少し戸惑いながらも、俺の誘いに応じてくれて・・・
俺はその夢がひどく幸せで、目覚めたくないと思った」
耳元で紡がれる夢物語を、元就は黙って聞いている
「けれど、お前は現実に帰るというんだ
俺は、お前と一緒に・・・二人きりで居たいのに、お前は帰ると言うんだ」
「愚かな鬼だ、力ずくで捕らえてしまえばよかったものを」
「あぁ、だから、捕まえにきた」
腕に、力がこもる
「無数の人の中で、俺が心底惚れた、お前を・・・
この腕に捕まえに来た」
私たちの世界が聞こえる
腕の中で交わる、その鼓動
それは、僅かに離れるだけで聞こえなくなり、微かな雑音に消されてしまうけれど、
夢ではなく、此処に私たちの世界がある
脆く儚い世界が、愛しい
--*--*--*--*--*--*--
桐生はよく、書いてる途中でオチと筋立てを見失います
典型となりました
サイトにアップできる分量かと思いました、
『夢』ネタは別件で書きたいことがあるので、今回はこちらで・・・
元就の不意の一言に、元親は首をかしげた
「眠っても、夢を見ない」
「見たい夢なのか?」
問いかけられ、元親の顔を見る
彼は笑っている
「・・・いや・・・見たい、わけではない・・・」
「じゃあ、イイじゃねぇか」
「・・・・・・そう・・・そうだな・・・」
「筆を知らぬか?」
「筆?」
「あぁ、私がいつも使っている筆だ
机から動かすはずもないのに、見当たらぬ・・・」
「今すぐ必要なのか?」
彼は笑っている
「・・・・・・いや、ただ、見当たらぬと気が落ち着かぬ・・・」
「少しくらい仕事を忘れてもバチはあたらねぇよ
なぁ、外に行かないか、今日は天気がいい」
「・・・・・・・」
「な?」
「・・・あ、あぁ・・・そう、しようか・・・」
「どうしたんだ? 外ばかり眺めて」
「・・・今、季節はいつであったか・・・?」
「今は夏だぜ、ほら、朝顔が咲き始めてる」
「・・・今年は、ずいぶんと過ごしやすいな・・・」
「そうだな。 お前は暑さに弱いから、ちょうどいいくらいだろ?」
彼は笑っている
「・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・その通りだ」
「よっし、風通しよくして昼寝でもするか」
「・・・・・・たまには、それも良いな・・・」
夢を失った眠り
筆のない机
穏やかな日々
そして、傍らで笑う、彼
「元親」
「ん?」
彼は笑う
甘く優しく、束縛するように
「季節はいつだ?」
「夏だ」
彼は笑う
「筆が一向に見つからない」
「必要ないだろう?」
彼が笑う
「夢を見ない」
「それは、」
「それは、今こそが夢だから」
彼は笑う
「そう、夢だ。 全部、お前の夢だ」
「・・・私の夢」
「お前の望み、お前の幸せ、その欠片、その類」
「筆のない部屋、穏やかな日々、そして・・・」
--傍らに、彼の笑みがあること
--彼と、二人きりの世界
元就はゆっくりと目をつぶる
「目覚めるのか?」
「・・・あぁ」
「現実なんて辛いことばっかりだ」
「・・・あぁ」
「ここに居ろよ、なぁ、元就」
「・・・それは、出来ない」
「どうしてだ?
お前は、
苦しんでばっかりだ、背負ってばっかりだ、傷ついてばっかりだ
欠片も愛していない現実なんてどうでもイイじゃねぇか」
「・・・・・・・元親」
「ここで、二人きりでいようぜ
ここなら、俺はずっと傍に居られる」
「・・・それは、幸せな夢だな・・・」
「だろう?」
「けれど、それは気が狂う、愛しさがわからなくなる
二人だけの世界なぞいらぬ
私は、無数の人が居る中で、そなたと出会い・・・
・・・そして、ほかのだれれも無く、そなたの傍に居ることを願った
私はそれを、誇らしく思っている」
「・・・・・・・・・元就」
「目覚めよう、私もそなたも
夢は甘いが、漬かり過ぎては身を溶かす
ようやっと覚えたこの・・・愛しさを、溶かして失いたくは無いのだ・・・」
「・・・そっか」
彼は笑う
少し寂しげに
けれど、嬉しそうに
「目覚めたら、抱きしめさせてくれ」
「--なりさ---、元就様」
「どうした」
浮き上がるように、意識が繋がる
呼ばれいることにすぐさま気づき、反射的に返事を返しながら、周囲を見渡す
見慣れた執務室
目の前には書きかけの書面と、使い慣れた筆
・・・どうやら、書き物をしている間に、眠りに落ち、そのまま文机に突っ伏して眠ってしまったようだ
夏の暑さの所為か、首周りが不快に汗ばんでいる
「あの・・・お客人が来ているのですが・・・」
締め切られた障子の先で、惑うように小姓は話す
「・・・客?」
「それが---」
その声をさえぎるように、荒々しい足音が廊下に響いた
「困りますっ、主はただ今、仕事中でっ!!」
「今も何も、年がら年中仕事じゃねぇかよ」
締め切られた部屋にも響き通る、快活な声
「---------」
元就は迷い無く立ち上がり、障子を開ける
「もとな、」
「通してよい、下がれ」
「か、かしこまりました!」
小姓は素早く一礼すると、口論になりかけている客人の元へ駆けた
「元就!」
小姓がたどり着くよりも早く、部屋から出た姿を見とめた彼が大きく手を振り、笑みを向けた
そして、制止していた家臣の横をすり抜け、元就の元へ駆け寄ると、
一にも二にもなく、彼の痩身を抱き寄せた
「夢を見た」
幼子がこらえきれず、今日の出来事を嬉々として話すように、元就を腕に抱いて、話し始める
「俺とお前しか居ない世界の夢だ
戦も執務もなくて、傍らにいつもお前が居て、
お前は少し戸惑いながらも、俺の誘いに応じてくれて・・・
俺はその夢がひどく幸せで、目覚めたくないと思った」
耳元で紡がれる夢物語を、元就は黙って聞いている
「けれど、お前は現実に帰るというんだ
俺は、お前と一緒に・・・二人きりで居たいのに、お前は帰ると言うんだ」
「愚かな鬼だ、力ずくで捕らえてしまえばよかったものを」
「あぁ、だから、捕まえにきた」
腕に、力がこもる
「無数の人の中で、俺が心底惚れた、お前を・・・
この腕に捕まえに来た」
私たちの世界が聞こえる
腕の中で交わる、その鼓動
それは、僅かに離れるだけで聞こえなくなり、微かな雑音に消されてしまうけれど、
夢ではなく、此処に私たちの世界がある
脆く儚い世界が、愛しい
--*--*--*--*--*--*--
桐生はよく、書いてる途中でオチと筋立てを見失います
典型となりました
サイトにアップできる分量かと思いました、
『夢』ネタは別件で書きたいことがあるので、今回はこちらで・・・