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「夢を見ないのだ」
元就の不意の一言に、元親は首をかしげた
「眠っても、夢を見ない」
「見たい夢なのか?」
問いかけられ、元親の顔を見る
彼は笑っている
「・・・いや・・・見たい、わけではない・・・」
「じゃあ、イイじゃねぇか」
「・・・・・・そう・・・そうだな・・・」
「筆を知らぬか?」
「筆?」
「あぁ、私がいつも使っている筆だ
机から動かすはずもないのに、見当たらぬ・・・」
「今すぐ必要なのか?」
彼は笑っている
「・・・・・・いや、ただ、見当たらぬと気が落ち着かぬ・・・」
「少しくらい仕事を忘れてもバチはあたらねぇよ
なぁ、外に行かないか、今日は天気がいい」
「・・・・・・・」
「な?」
「・・・あ、あぁ・・・そう、しようか・・・」
「どうしたんだ? 外ばかり眺めて」
「・・・今、季節はいつであったか・・・?」
「今は夏だぜ、ほら、朝顔が咲き始めてる」
「・・・今年は、ずいぶんと過ごしやすいな・・・」
「そうだな。 お前は暑さに弱いから、ちょうどいいくらいだろ?」
彼は笑っている
「・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・その通りだ」
「よっし、風通しよくして昼寝でもするか」
「・・・・・・たまには、それも良いな・・・」
夢を失った眠り
筆のない机
穏やかな日々
そして、傍らで笑う、彼
「元親」
「ん?」
彼は笑う
甘く優しく、束縛するように
「季節はいつだ?」
「夏だ」
彼は笑う
「筆が一向に見つからない」
「必要ないだろう?」
彼が笑う
「夢を見ない」
「それは、」
「それは、今こそが夢だから」
彼は笑う
「そう、夢だ。 全部、お前の夢だ」
「・・・私の夢」
「お前の望み、お前の幸せ、その欠片、その類」
「筆のない部屋、穏やかな日々、そして・・・」
--傍らに、彼の笑みがあること
--彼と、二人きりの世界
元就はゆっくりと目をつぶる
「目覚めるのか?」
「・・・あぁ」
「現実なんて辛いことばっかりだ」
「・・・あぁ」
「ここに居ろよ、なぁ、元就」
「・・・それは、出来ない」
「どうしてだ?
お前は、
苦しんでばっかりだ、背負ってばっかりだ、傷ついてばっかりだ
欠片も愛していない現実なんてどうでもイイじゃねぇか」
「・・・・・・・元親」
「ここで、二人きりでいようぜ
ここなら、俺はずっと傍に居られる」
「・・・それは、幸せな夢だな・・・」
「だろう?」
「けれど、それは気が狂う、愛しさがわからなくなる
二人だけの世界なぞいらぬ
私は、無数の人が居る中で、そなたと出会い・・・
・・・そして、ほかのだれれも無く、そなたの傍に居ることを願った
私はそれを、誇らしく思っている」
「・・・・・・・・・元就」
「目覚めよう、私もそなたも
夢は甘いが、漬かり過ぎては身を溶かす
ようやっと覚えたこの・・・愛しさを、溶かして失いたくは無いのだ・・・」
「・・・そっか」
彼は笑う
少し寂しげに
けれど、嬉しそうに
「目覚めたら、抱きしめさせてくれ」
「--なりさ---、元就様」
「どうした」
浮き上がるように、意識が繋がる
呼ばれいることにすぐさま気づき、反射的に返事を返しながら、周囲を見渡す
見慣れた執務室
目の前には書きかけの書面と、使い慣れた筆
・・・どうやら、書き物をしている間に、眠りに落ち、そのまま文机に突っ伏して眠ってしまったようだ
夏の暑さの所為か、首周りが不快に汗ばんでいる
「あの・・・お客人が来ているのですが・・・」
締め切られた障子の先で、惑うように小姓は話す
「・・・客?」
「それが---」
その声をさえぎるように、荒々しい足音が廊下に響いた
「困りますっ、主はただ今、仕事中でっ!!」
「今も何も、年がら年中仕事じゃねぇかよ」
締め切られた部屋にも響き通る、快活な声
「---------」
元就は迷い無く立ち上がり、障子を開ける
「もとな、」
「通してよい、下がれ」
「か、かしこまりました!」
小姓は素早く一礼すると、口論になりかけている客人の元へ駆けた
「元就!」
小姓がたどり着くよりも早く、部屋から出た姿を見とめた彼が大きく手を振り、笑みを向けた
そして、制止していた家臣の横をすり抜け、元就の元へ駆け寄ると、
一にも二にもなく、彼の痩身を抱き寄せた
「夢を見た」
幼子がこらえきれず、今日の出来事を嬉々として話すように、元就を腕に抱いて、話し始める
「俺とお前しか居ない世界の夢だ
戦も執務もなくて、傍らにいつもお前が居て、
お前は少し戸惑いながらも、俺の誘いに応じてくれて・・・
俺はその夢がひどく幸せで、目覚めたくないと思った」
耳元で紡がれる夢物語を、元就は黙って聞いている
「けれど、お前は現実に帰るというんだ
俺は、お前と一緒に・・・二人きりで居たいのに、お前は帰ると言うんだ」
「愚かな鬼だ、力ずくで捕らえてしまえばよかったものを」
「あぁ、だから、捕まえにきた」
腕に、力がこもる
「無数の人の中で、俺が心底惚れた、お前を・・・
この腕に捕まえに来た」
私たちの世界が聞こえる
腕の中で交わる、その鼓動
それは、僅かに離れるだけで聞こえなくなり、微かな雑音に消されてしまうけれど、
夢ではなく、此処に私たちの世界がある
脆く儚い世界が、愛しい
--*--*--*--*--*--*--
桐生はよく、書いてる途中でオチと筋立てを見失います
典型となりました
サイトにアップできる分量かと思いました、
『夢』ネタは別件で書きたいことがあるので、今回はこちらで・・・
元就の不意の一言に、元親は首をかしげた
「眠っても、夢を見ない」
「見たい夢なのか?」
問いかけられ、元親の顔を見る
彼は笑っている
「・・・いや・・・見たい、わけではない・・・」
「じゃあ、イイじゃねぇか」
「・・・・・・そう・・・そうだな・・・」
「筆を知らぬか?」
「筆?」
「あぁ、私がいつも使っている筆だ
机から動かすはずもないのに、見当たらぬ・・・」
「今すぐ必要なのか?」
彼は笑っている
「・・・・・・いや、ただ、見当たらぬと気が落ち着かぬ・・・」
「少しくらい仕事を忘れてもバチはあたらねぇよ
なぁ、外に行かないか、今日は天気がいい」
「・・・・・・・」
「な?」
「・・・あ、あぁ・・・そう、しようか・・・」
「どうしたんだ? 外ばかり眺めて」
「・・・今、季節はいつであったか・・・?」
「今は夏だぜ、ほら、朝顔が咲き始めてる」
「・・・今年は、ずいぶんと過ごしやすいな・・・」
「そうだな。 お前は暑さに弱いから、ちょうどいいくらいだろ?」
彼は笑っている
「・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・その通りだ」
「よっし、風通しよくして昼寝でもするか」
「・・・・・・たまには、それも良いな・・・」
夢を失った眠り
筆のない机
穏やかな日々
そして、傍らで笑う、彼
「元親」
「ん?」
彼は笑う
甘く優しく、束縛するように
「季節はいつだ?」
「夏だ」
彼は笑う
「筆が一向に見つからない」
「必要ないだろう?」
彼が笑う
「夢を見ない」
「それは、」
「それは、今こそが夢だから」
彼は笑う
「そう、夢だ。 全部、お前の夢だ」
「・・・私の夢」
「お前の望み、お前の幸せ、その欠片、その類」
「筆のない部屋、穏やかな日々、そして・・・」
--傍らに、彼の笑みがあること
--彼と、二人きりの世界
元就はゆっくりと目をつぶる
「目覚めるのか?」
「・・・あぁ」
「現実なんて辛いことばっかりだ」
「・・・あぁ」
「ここに居ろよ、なぁ、元就」
「・・・それは、出来ない」
「どうしてだ?
お前は、
苦しんでばっかりだ、背負ってばっかりだ、傷ついてばっかりだ
欠片も愛していない現実なんてどうでもイイじゃねぇか」
「・・・・・・・元親」
「ここで、二人きりでいようぜ
ここなら、俺はずっと傍に居られる」
「・・・それは、幸せな夢だな・・・」
「だろう?」
「けれど、それは気が狂う、愛しさがわからなくなる
二人だけの世界なぞいらぬ
私は、無数の人が居る中で、そなたと出会い・・・
・・・そして、ほかのだれれも無く、そなたの傍に居ることを願った
私はそれを、誇らしく思っている」
「・・・・・・・・・元就」
「目覚めよう、私もそなたも
夢は甘いが、漬かり過ぎては身を溶かす
ようやっと覚えたこの・・・愛しさを、溶かして失いたくは無いのだ・・・」
「・・・そっか」
彼は笑う
少し寂しげに
けれど、嬉しそうに
「目覚めたら、抱きしめさせてくれ」
「--なりさ---、元就様」
「どうした」
浮き上がるように、意識が繋がる
呼ばれいることにすぐさま気づき、反射的に返事を返しながら、周囲を見渡す
見慣れた執務室
目の前には書きかけの書面と、使い慣れた筆
・・・どうやら、書き物をしている間に、眠りに落ち、そのまま文机に突っ伏して眠ってしまったようだ
夏の暑さの所為か、首周りが不快に汗ばんでいる
「あの・・・お客人が来ているのですが・・・」
締め切られた障子の先で、惑うように小姓は話す
「・・・客?」
「それが---」
その声をさえぎるように、荒々しい足音が廊下に響いた
「困りますっ、主はただ今、仕事中でっ!!」
「今も何も、年がら年中仕事じゃねぇかよ」
締め切られた部屋にも響き通る、快活な声
「---------」
元就は迷い無く立ち上がり、障子を開ける
「もとな、」
「通してよい、下がれ」
「か、かしこまりました!」
小姓は素早く一礼すると、口論になりかけている客人の元へ駆けた
「元就!」
小姓がたどり着くよりも早く、部屋から出た姿を見とめた彼が大きく手を振り、笑みを向けた
そして、制止していた家臣の横をすり抜け、元就の元へ駆け寄ると、
一にも二にもなく、彼の痩身を抱き寄せた
「夢を見た」
幼子がこらえきれず、今日の出来事を嬉々として話すように、元就を腕に抱いて、話し始める
「俺とお前しか居ない世界の夢だ
戦も執務もなくて、傍らにいつもお前が居て、
お前は少し戸惑いながらも、俺の誘いに応じてくれて・・・
俺はその夢がひどく幸せで、目覚めたくないと思った」
耳元で紡がれる夢物語を、元就は黙って聞いている
「けれど、お前は現実に帰るというんだ
俺は、お前と一緒に・・・二人きりで居たいのに、お前は帰ると言うんだ」
「愚かな鬼だ、力ずくで捕らえてしまえばよかったものを」
「あぁ、だから、捕まえにきた」
腕に、力がこもる
「無数の人の中で、俺が心底惚れた、お前を・・・
この腕に捕まえに来た」
私たちの世界が聞こえる
腕の中で交わる、その鼓動
それは、僅かに離れるだけで聞こえなくなり、微かな雑音に消されてしまうけれど、
夢ではなく、此処に私たちの世界がある
脆く儚い世界が、愛しい
--*--*--*--*--*--*--
桐生はよく、書いてる途中でオチと筋立てを見失います
典型となりました
サイトにアップできる分量かと思いました、
『夢』ネタは別件で書きたいことがあるので、今回はこちらで・・・
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